
株式会社NYK Business Systemsさまでは、長年利用していた営業系システムから「Veson IMOS Platform」への移行を進めるなかで、膨大な契約データの精緻な入力が大きな課題となっていました。この重要工程に、MAIAが育成した女性デジタル人材「でじたる女子」が2022年6月より参画。契約データの複雑性や例外処理にも柔軟に対応し、プロジェクトを支援しました。
今回は取締役・常務執行役員の照木麻子さまに、本プロジェクトの取り組みの背景やでじたる女子の業務に対する印象などについてお聞きしました。
日本郵船のITの中核を担うNYK Business Systems
― はじめに、貴社の事業概要について教えてください。
株式会社NYK Business Systems(以下、NBS)は、海上運送業を主とした総合物流事業を手掛ける日本郵船株式会社(以下、日本郵船)を、ITで支えるグループ会社です。日本郵船社内にはIT部門が存在せず、IT関連業務はすべてNBSが担っています。
業務においては日本郵船側と密接に連携しながら、課題の抽出からシステムの実装まで一貫して担当しています。単なる受発注の関係ではなく、現場の業務部門のやりたいことや課題に寄り添い、整理しながら一緒に進めていくスタイルがNBSの特徴です。
私自身はビジネスサイドとしてのキャリアが長いため、本プロジェクトでは、ビジネス側の視点を持ちつつIT側との橋渡しを行うことを目指していました。

株式会社NYK Business Systems 取締役・常務執行役員 照木麻子さま
会計と直結するシステムの移行に求められた「100点の正確性」
― 今回の基幹システム移行プロジェクトがスタートした背景を教えてください。
もともと基幹システムとしては、2012年に導入したパッケージシステムを長く使用していました。ただ、ベンダー側の企業としての勢いが弱まっており、新しい機能を開発する速度が鈍り、アップグレードのたびにバグが発生したり、長年親しくしてきた幹部のメンバーが入れ替わったり、企業としての成長性の観点から、「いよいよシステムを移行する必要があるのではないか」という声があがってきていたんです。
移行のハードルとなったのは、営業系のシステムでありながら会計と直結していたことです。日々の出納も決算処理もすべてこのシステム上で行っているため、相当なデータ量を抱えており、1円・1ドルたりとも差異が発生することは許されません。移行には「100点の正確性を持った対応」が求められ、容易に入れ替えを決断する気にはとてもなれないというのが正直なところでした。
そうした中で、業務部門から異動してきた若手社員が「このままではダメだ」と声を上げたんです。彼は粘り強くキーパーソンを説得し、上司である私にも真剣に働きかけてきてくれました。これまでの経験から、この規模のシステム移行の難しさを考えると、「本当に最後までプロジェクトが支援される体制が整っているのか? リソースが足らないのではないか?」と少なからず不安もありましたが、その熱意に動かされ、ついにプロジェクトがスタートしました。
― システム移行において、特に懸念された点は何でしょうか?
システムの切り替えを、一斉に行うことができない点です。各船舶毎に何年も前から結ばれている契約をすべて旧システムから新システムにコピーすることは不可能であるため、それぞれの契約上のキリの良いところで、ひとつずつデータを移行していく必要があったのです。そのため、新旧システムを並行稼働させながら、順次移行していく方法を取りました。旧システムから情報を取るべき部分と、新システムから取るべき部分が、複雑に混在した状態が発生するということですね。
この移行のプランニングにおいては、経験を有するプランナーに協力を依頼しました。以前に同様のプロジェクトを共にした元部下で、現在北米在住の方です。13時間の時差を乗り越えて、リモートで対応してくれました。
ただの入力ではない。「でじたる女子」の業務に見る解釈力と連携力
― そんな中で「でじたる女子」をパートナーにお選びいただいたのは、どのような理由からだったのでしょうか?
JSUG(Japan SAP User Group)を通じてMAIAさんを紹介いただき、非常におもしろい取り組みをされているなと感じていました。同じ金額をお支払いするのであれば、社会課題解決に貢献できる方に依頼したいという想いもあり、トライアルの機会をうかがっていました。
そんな中で、今回のプロジェクトはある程度まとまった業務をリモートで託せる内容であったこと、そして統括するプランナーとのコミュニケーションに13時間の時差があっても遂行できる内容だったこともあり、ご相談してみようと考えました。代表の月田さんにすぐに対応いただき、必要な人数を短期間でまとめていただけたので、とてもありがたかったです。
― でじたる女子にご依頼いただいた業務内容は、具体的にどのようなものだったのでしょうか?
お願いしたのは、日本郵船が運航している約800隻の船舶のうち、約750隻分の契約情報のシステムへの入力業務です。契約内容は40項目ほどあり、船によってそれぞれ異なるなど複雑なケースも多い点が難しい部分でした。プランナーがつくったマニュアルだけではカバーできないパターンも多かったのですが、そういった点も含めてでじたる女子の皆さんには臨機応変に対応いただき、契約情報の入力後は、船舶の運航スケジュールの入力業務などにも携わっていただきました。
― でじたる女子の参画前に、不安に思われていたことはありますか?
正直なところ、アウトソースにありがちなこととして「正確性に不安があるのでは」という懸念はありました。過去にアウトソースした際に、確認作業に手間がかかりすぎて「自分たちでやった方が早かった」と感じた経験があったからです。
でも、今回は違いました。特に、でじたる女子チームのリーダーの方がしっかりと取りまとめてくださったこともあり、思っていた以上に精度が高かったんです。誤入力のチェックがほとんど不要なほど正確に対応いただけたのは、嬉しい驚きでした。
― 働き方や業務に対する姿勢で、印象に残った点はありますか?
プランナーとはもちろん、チームメンバー同士でもチャットで活発にコミュニケーションを取っていた点でしょうか。業務の正確さも、チャットでコミュニケーションがしっかり取れていることが背景にあるように思います。時差のあるプランナーとのコミュニケーションでは、日本時間午前中はリアルタイムにレスポンスしあい、午後はでじたる女子チームが作業を進め、日本時間の夜つまり北米の朝になるとプランナーから返事が来るという形が取れたので、時差が大きな問題になることもありませんでした。
特に印象深かったのは、わからないことを曖昧にせずに確認する姿勢です。「この場合はこうですよね?」と、自分なりに理解したうえで質問してくれるので、とても助かりました。単純作業として捉えるのではなく、それぞれの業務の意味や意図を考えながら取り組んでくださっているからこそのコミュニケーションだと思います。
また、皆さんそれぞれのご事情に合わせてフルタイム勤務ではありませんでしたが、プロジェクト期間中はしっかりと時間を確保してくださったこともあり、予定より早くプロジェクトを終えることができました。
― プロジェクトにおいて、双方がどのようなスタンスで臨むと、より進めやすいものになるのでしょうか?
まずは依頼する側がきちんと業務内容を整理し、やることを明確に説明できるよう準備することが何より大切です。
その上で、参加されるパートナーの皆さんには、積極的にコミュニケーションを取っていただけるとありがたいですね。不安を募らせ、それ自体を共有できない状態だと、うまくいかないケースが多いように感じます。特にリモートでの業務では、一度も対面でお会いすることなく仕事が進んでいくため、会っていればなんとなくわかることも気づきにくいという課題があります。難しいことやわからないことは率直にお伝えいただくなど、積極的に状況を共有するコミュニケーションをとることが大切です。今回のプロジェクトでは、その点も上手く連携できていたと思います。
SAP S/4 HANA導入やPMO支援も。広がる業務の可能性
― 今回のプロジェクトだけでなく、他にも複数のプロジェクトででじたる女子チームがご一緒させていただいていますね。
そうですね。現在は、SAP S/4 HANAの導入プロジェクトやPMO支援にも携わっていただいており、丁寧でしっかりした対応に助けられています。社内でも「でじたる女子の皆さんは、本当にいろんなことができるんですね」と驚きの声が上がっています。
― ITを業務で扱うにあたって重要なことは何でしょうか?
ITの力は、今後ますます社会課題を解決する鍵になっていくと思います。その中でも大切なのは、「なぜそこにITの力が必要なのか」をきちんと理解し、自分ごととして共感し、熱意を持って取り組むこと。ITは常に進化しているため、ツールや技術ばかりが先行してしまい、それがどう業界や業務に役立つのかがおざなりになりがちです。だからこそ、一度立ち止まって解決すべき課題を見つめ、どうすればその課題を解決できるのかを探るといったアプローチが重要になるでしょう。
― 照木さまはJSUG副会長も務めていらっしゃいます。SAPの現状や今後についても教えてください。
SAP業界は今本当に技術者が足りておらず、しっかりとしたスキルや知識をお持ちの方へのニーズが高まっています。特に、私たちが導入しているパブリッククラウド環境や、一般企業が使わないようなニッチなモジュールなど、特定の業界や企業のニーズに合わせて多様化している部分では、対応できる人材も限られているためその傾向が顕著です。
その上で、今回のプロジェクトを通じて感じたでじたる女子の皆さんの丁寧で細やかな仕事ぶりは、SAP S/4 HANAへの移行などにおいても活きるポイントだと感じています。ぜひ、今後のご活躍の広がりを期待しています。
◆「でじたる女子プロジェクト」について
MAIAでは日本全国で地方自治体や企業とのコラボレーションを推進し、RPAやSAPなどのITスキル育成・就労支援を行っています。また、プログラムの一部コンテンツについては、個人の目的やペースに合わせて学習できるようサブスクリプション型の「でじたる女子+(プラス)」にて個別に提供を行っています。
でじたる女子プロジェクト 公式ページ https://digital-women.maia.co.jp/
でじたる女子+ 公式ページ https://digital-joshi.maia.co.jp/